川久保病院 内科
                              尾形 文智(ふみとも)医師
   
       今や国民病といわれる糖尿病・高血圧症などの大きな原因の一つである肥満。
               これを予防しすれば健康寿命を延ばすことにつながります。
 
 
       
 
 肥満(飽食)と飢餓は正反対の状態ですが、現代人の肥満の問題は、人類が絶えず飢えにさらされてきたことと深い関係があります。約400万年におよぶ人類の歴史はまさに飢餓との闘いで、何度も訪れた氷河期は、人類に多くの試練を与え続けました。
 人類が安定して食料を得ることができるようになったのは、人類が経験した最後の氷河期が終了した約1万年前なのです。
人類の歴史を1年に例えるなら、「飽食の時代」など「大晦日の23時56分51秒」以降の事なのです。
 次の食事がいつになるのかわからなかった時代、食物から体内に取り入れたエネルギーを効率よく蓄えるには、余ったエネルギーをすべて脂肪に変え、皮下か内臓に蓄えなければなりません。「少ししか食べなくても痩せない」遺伝子が生き残り「たくさん食べても太らない」遺伝子は多くが淘汰されたといえるでしょう。
 しかし、今日では、生き抜くために欠かせなかったこの能力が、かえってマイナスに作用していることがはっきりしてきました。
私たちの日々の生活では、あまり歩かなくなったし、肉体労働が減り消費するエネルギーは明らかに減ってきています。
 言い換えれば、現代の私たちに組み込まれた優秀な遺伝子が、時代に合わなくなってきたともいえるのです。

    
  様々な病気の原因ともなる「肥満」。いかに肥満を予防するか・・・今や、それは私たちにとって日々心がけねばならない重要なテーマになりました。
 現在、体脂肪量の推定によく用いられるのは「体格指数」(略してBMI)です。計算式は、体重(Kg)÷[身長(m)×身長(m)]です。日本の肥満学会では理想値を「22」とし、その20%以上、つまり《26.4以上》を肥満と決めています。
 また、脂肪の量だけでなく蓄積している場所も重要です。皮下に脂肪がたまる「「皮下脂肪型肥満」よりも、腸膜間に「脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」の方が、糖尿病、高脂血症、高血圧症、虚血性心臓病などを起こしやすく、より危険であることがわかってきました。最近提唱される「メタボリックシンドローム」の診断基準に腹囲が入っているのもこのためです。
               
 1994年に「肥満遺伝子」が発見され、体内に大量の脂肪を蓄積する能力は遺伝することがわかってきました。この遺伝子を持つ人が食べ過ぎ、運動不足、接食パターンの異常などの生活習慣になじんでしまった時、肥満になると考えられています。すべて遺伝で決まるわけではないのです。
 肥満を防ぐには、まず生活習慣のゆがみを正すことが何より大切です。イライラしたり、いつも不安感がある場合、それから逃避したいためつい食べてしまいがちです。また、運動が不足すれば消費エネルギーが減り、普通程度の食事でも太る原因になります。
 「全然食べていないのに太る」という人がいます。遺伝的な要素を加味しても、そんなことはありません。肥満の人の多くは食習慣のゆがみとともに、食事や摂取カロリーに対しての認識の「ずれ」が多いものです。肥満の人の食事回数は多いというわけではなく、むしろ回数が少ない人が太りやすいこともわかってきました。また、「ご飯を減らして、その分おかずや間食にまわす(結果、摂取カロリーは増えている)」など我流の食事療法を行っていることも多いものです。
「朝食抜き、昼そば、夜ドカ食い」などは栄養バランスが悪いだけではなく、夜間は消化管の吸収機能が昼間より高まりやすいのです。また、”早食い”では、満腹感を覚えにくいため、食べ過ぎてしまいやすいのです。
       
   
 たとえ遺伝的に肥満体質であっても、肥満は必ず予防できます。肥満は生活習慣病なのです。また、大人と子どもでは肥満のタイプが違います。小児の肥満は、脂肪細胞の数が増えていく「脂肪細胞増殖型肥満」ですが、大人の場合は「脂肪細胞肥大型肥満」で、こちらは小児の肥満より治療しやすいのです。
 肥満の治療には、食事療法・運動療法・行動療法・薬物療法・外科療法があります。

                              
  減量には、入ってくるエネルギーを減らし、出ていく(消費する)エネルギーを増やすことが重要です。どのくらい摂取エネルギーを減らすのか(食事療法)。それにはまず自分の標準体重を知ることです。もちろん「野菜だけを食べる」など、バランスの悪い食事では体調を崩します。必要エネルギーの範囲以内で各栄養素のバランスを考えることが大切で、可能であれば一度栄養士の指導を受けることをお勧めします。
 細かい計算式は省略しますが、男性では1日1600カロリー、女性では1400カロリー程度が目安になります。
川久保病院栄養科に「食と栄養のホットライン」を設け、一般の方々からの相談に応じていますので、ぜひご利用下さい。
 

 食事療法だけに頼った場合筋肉量が減り、安静時の代謝率が低下しやすくなる(やせにくくなる)欠点があります。運動療法を併用すると、筋肉量が増え熱産生の良い身体になり、体脂肪の減少にもつながります。さらに身体を動かすことで交感神経の緊張状態が適度に保たれて、体脂肪が燃えやすくなり、効率よく減らすことができます。
 運動療法としては、息を止めて全力を出し切るようなものではなく、軽く汗ばむ程度の歩行やジョギング、自転車、水中歩行など、「有酸素運動」が適しています。また、継続して行うことも大切で、1回30分以上、1週間に3〜6回、1回につき3時間以上をめざしましょう。 
  川久保病院では、管理栄養士が「食」に関する どんなことにでも相談に応じています。